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マーボ豆腐のルーツは蜀の国にあり

 マーボ豆腐は、成都の料理店で考案されたという。成都といったら、蜀の国の都! 蜀といったら、諸葛孔明、劉備玄徳、関羽雲長、張飛翼徳、超雲子竜・・・! ということは、三国志の英雄たちも、ピリ辛のマーボを食べながら頑張っていたのだろうか・・・。などと考えてもみたくなるのだが、さにあらず。残念ながらマーボ豆腐の歴史は浅い。これは清の時代になってから作られた料理なのである。マーボ豆腐の材料は、山椒(花山椒)と唐辛子、甘味噌、そしてひき肉、豆腐。ここで、唐辛子が登場するわけであるが・・・。唐辛子は新大陸からもたらされた香辛料。それは15世紀以降の話なので、当然、三国志時代の蜀の国に、唐辛子があるわけもなし。
 
 が、しかし。山椒はあったはず。山椒は、古来より、蜀の山にはたくさん生えていた。そして、山椒は、中国料理には欠かせない香辛料でもある。山椒の英語名はjapanese pepperなので、日本原産と思われがちだが、中国説もある。私は多分、山椒の原産地は中国の山奥だろうと思うのである。唐辛子が入ってくる前は、山椒をおもな辛味として使っていたはずである。山椒は薬用にも食用にもされる。健胃の漢方薬としても用いられていたようで、屠蘇散の中にも入っている。さらには、腐敗を防ぐ効果もある。匂い消し、毒消し。だから、胡椒と同じように肉や魚を漬け込むのに使われていたのだろう。
 さらに、薬は毒ともなる。実際、サンショオールと名付けられた成分は、量が多すぎれば毒となる。山椒の汁を川に流して、魚を麻痺させる漁法というのがあるそうで、戦前まで、日本の東北地方で行われていたらしいのだが、きっと、古代の中国でも行われていたのではないだろうか。山椒の辛味は、痺れが伴う辛味。そんな強烈な辛味は、魔除けにもなるに違いない。山椒の棘、そして痺れるような辛味。どう考えても、魔除けの植物ではないか、と思うわけである。ちなみに、重陽の節句に髪に飾るサンシュユは、赤く色づいた山椒のことではないか、という説があり、私もたぶんそうではないかと思う。
 とにかく!山椒が入っていないマーボ豆腐なんて、本場の味ではない! 三国志の時代に、すでに山椒が香辛料として使われていたことだけは間違いのないところであろう。蜀の国は、気候が厳しく、暑さ寒さが甚だしい。湿気が強く、体を冷やすので、温まる食べ物が求められるのである。私は昔・・・(といっても、三国志の時代ではなく、つい20年ぐらい前なのだが)、中国大陸を長期旅行した時、四川省のどこだっけな、2つの川が合流する大きな街だったけれど、そこから発生する湿気で体が冷えて、胃が痛くなったことがある。なんでも、風土病みたいなものだそうである。体を温めろ、と街の料理屋で言われ、何を食べたらいいのかと聞いたら、当然のようにマーボ豆腐が出てきたっけ。

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 では、豆腐はどうだろうか。豆腐は中国ルーツであるが、紀元前にはすでに存在していたという説もあれば、6世紀以降だという説もあり、三国志の時代に豆腐があったかどうかははっきりしない。が、仮にあったとしても、今のような豆腐ではなかったらしい。大豆の発酵食品・・・。たぶん、東南アジアのテンペのようなもので、納豆に近いようなものなのではないか、という説さえある。う〜ん、豆腐についてはいまいち不明。
 
 と、想像を巡らせてみるに・・・。曹操軍を蹴散らして城に戻ってきた張飛、「おい、腹が減った!めしだ、めしだ。」「おお、張飛か、ご苦労であった。さあ、呑め、食え。」「兄貴、かたじけない。」と、まず酒が出てくる。(この時代の酒は、粟や稗を発酵させたものだったらしい。たぶん、酸味があるどぶろくみたいなもの。)大杯に三杯、ぐいぐいぐいっ、と飲み干した張飛、肉にかぶりつき、「うめぇ!」。その調味料はきっと、山椒醤なのではないかと思うわけである。「うん、痺れる!厄祓いだっ!利くぜええ!」と張飛が叫んだかどうかは知らないけれど。
 肉は羊か猪。生姜は東南アジア原産で、蜀の国よりも暖かいところが原産地であるが、かなり古くから中国には伝わっていたから、あったはず。もちろん味噌もあっただろう。正確には醤(ジャン)である。醤(ジャン)は、穀物や豆の塩漬けを発酵させたもので、味噌と醤油の中間みたいなもの。などとマーボ豆腐を食べながら私は想像するわけである。「生姜は体を暖める。山椒は厄を祓う。食は医なり。各々方、十分に体を休められよ。」と、諸葛孔明が言ったかどうかはわからないけど、なんだか言いそうな気がする、マーボ豆腐を眺めていると。
 
 で、我が家のマーボ豆腐の作り方を書いておきます。だいたい2人前。材料は以下。
 刻み生姜カップ半分。刻み葱(青いところ)カップ半分。山椒の実の醤油漬け、20個、辛いのが好きな方はもっと。細かく刻む。
 味噌、お玉に1杯、醤油、砂糖、適当。片栗粉、ティースプーン山盛り2杯。あとは挽き肉100グラム〜200グラム、豆腐1丁。
 フライパンで肉を炒める。刻み山椒と刻み生姜を入れる。砂糖を入れる、味噌を入れる。適当に醤油を足す。混ざったら水を足す。沸騰したら水溶き片栗粉を入れる。片栗粉が溶けたら、刻み葱を入れる。豆腐を切って入れる。これで出来上がり。
 簡単です、ぜひやってみてください。なぜ唐辛子が入ってないかって? それは気分的に古代中国に想いを馳せたいからなんですが、でも、唐辛子がお好きな方はどうぞ。刻み唐辛子を少量、味噌と醤油の間に足せばいいだけです。唐辛子を足したほうが、魔除け効果が高まるかどうかは・・・わかりませんけどね。

秋月さやか

※ 山椒の実の醤油漬けは、初夏に青い山椒の実を摘んでさっと茹で、醤油と塩に漬ければできます。ビンに入れておけば1年間以上は大丈夫でしょう。山椒の実は、秋になると赤く色づきます。まるで唐辛子みたいな色。

筆者エッセイ > マーボ豆腐のルーツは蜀の国にあり

 
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