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親知らず、最後の牙城

 人間の歯は28本。(偶然だけれど月宿の数と同じ!)そして親知らず(第三大臼歯)が全部生えた場合はプラス4本で32本。
 なぜ「親知らず」というのか。それは永久歯(大人の歯)がすべて生え揃ってから、かなりしばらくして・・・もう歯など生えないだろうと思った頃に生える歯だから。時には成人後に生えてくることもあり、だから親が知らない歯、親知らずという名称なのだそうだ。
 
 親知らずが4本ともある人は親不孝モノ、というジンクスがあるらしい。その一方で、親知らずが4本とも生える人は親に頼らずに自立する、などというジンクスを耳にしたこともある。
 知人(スピリチュアル系修験者)は、「親知らずが4本ある人は、直観力が鋭い。当然、霊感を持っている!」と力説するのだが・・・。
 親知らずというのは、もともとあったけれど、不要になって退化した歯、というような説を聞いたことがある。だとしたら・・・親知らずがあるのは、原始型ということになり、その場合、現代人が忘れてしまったような野生の勘が備わっている、ということなのだろう、たぶん。
 

画像:親知らず、最後の牙城


 私に初めて親知らずが生えたのは、10代後半である。歯肉を突き破って頭を出す親知らず。歯茎が痛み、熱が出た。口の中を覘くと、歯茎の奥のほうに、歯が生えていた。へえ、親知らずなんだ、これ。
 そして2本目が出た時のその痛みは半端ではなかった。あまりの痛さに、私は親知らずを抜くことを決意。雑誌の締め切りをすべて終え、風呂にも入り、部屋の掃除も済ませ、買い物を完了…つまり1週間ぐらい寝込んでもいい状態にし、意を決して歯医者に向かった。親知らずはたいてい根が深いものだが、この親知らずは根が3本あり、しかも長さもかなりのものだと脅されていた。実際、簡単には抜けなかった。「うが〜」「ええいっ」と、手に汗握る格闘のような抜歯がようやく終わり、「はい、うがいしてください。」で、力が抜けてほっとした私に、歯医者さんはレントゲン写真を突きつけた。「あとの2本は、これから生えてきますね。」ええ〜!!! これからまたぁ〜? いや、生えるというより、姿をあらわす、というのが正しいのだが。
 さて、根っこが3本ある立派な歯を、私はおまもりのように、ペンシルケースに入れて持ち歩いていた。お見せしたいぐらいの立派な根っこだったが、(友人には気味悪がられたが)、残念なことに、それはある時、失くしてしまった。キーホルダーにでも加工しておけばよかったかと思う。まさに根付けにしておくべきだったか、と。
 そして、親知らず関連で問題が発生する運命周期はなぜか7年毎にやってきた。親知らずは、奥にあって磨きにくいため、虫歯になりやすい。1本目は、結局は虫歯になり、2本目を抜いた約7年後に、抜歯の運命に…。
 7年という周期は、土星に関連する。つまり、土星は約30年で全天を1周する。太陽に対し、土星が合(コンジャンクション)、矩(スクエア)、衝(オポジション)となるのは約7年毎。7という数は東洋でも重視される。7歳で学校に入り、14歳を過ぎれば自立心が芽生え、21歳は社会的な道を決める頃合、28歳ともなれば、社会を支える側に回る。7歳前後で乳歯は永久歯に生え替わり、14歳を過ぎてから出てくる歯は、親知らずと呼ばれるようになる。21歳で骨の成長はほぼ止まる(と言われている。)。つまり、7は、成長の節目をあらわす数なのである。
 
 3本目の親知らずが姿をあらわした時にも、お約束のように歯茎が痛み、発熱、抜歯。が、4本目は抜歯というわけにはいかなかった。右上奥という抜きにくい位置にあるというだけではなく、これまでよりも、さらに根が深い。「この歯は、簡単に抜けるかどうかわかりません。確実に抜きたいなら、口腔科に行ってください。手術になると思いますから。」と、宣告された。となると、虫歯にしないように気をつけなければならないわけで。が、やはりほどなく虫歯化。といっても、簡単に抜歯できない以上、治療しつつ、これ以上、進行させないようにするしかない。だから私は、たまに親知らずの状態を確認するために歯医者に行く。今年は大丈夫だろうか、なんとか治療できればいいけど。
「おやひらず、だいりょ〜ぶでひか?」
「うん、ちょっとね、削って詰めときましょう。」
「にゅかなくてもいいれひゅか?」
「ま、もう少し様子を見ましょう。はい、うがいして〜。」
 治療後、歯医者さんはこう言った。
「根っこは大丈夫なんだから、抜くことはありません。それにね、親知らずもね、役に立つときがあるんです。奥歯が虫歯でダメになったとするでしょ?その場合、抜いた親知らずを移植できる可能性もありますよ。」
「移植?」
「親知らずだからというわけじゃないんですけど、歯は移植できるんですよ。根があれば、根付くんです。」
 なんと、歯の移植が可能だとは〜。
 
 さて、たしかに私は親知らずが4本生える体質だったわけ。でも、残念ながら霊感はありません。だって3本は抜いちゃったからね。完全に4本揃っていないと、野生の勘には恵まれないのでしょう、きっと。

秋月さやか


写真:素材辞典

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