狢(むじな)「いいにおいだな〜。あちっ!」
狐(きつね)「しっぽ。焦がさないように気をつけろよ〜。」
狢(むじな)「うぃ。大根おろし、くれよ。」
狸(たぬき)「ほらよ、煎り豆もあるぞ。」
狐(きつね)「大豆・・・。よくそんなものが食えるな。ま、たまにはいいか。」
狸(たぬき)「節分だからな、めざしも大豆も食い放題よ!飲みねえ、食いねえ。」
狢(むじな)「でも、なんで節分にはめざしを食べるんだ?」
狸(たぬき)「健康食品だからじゃないか。」
狐(きつね)「一種のまじないだそうだ。」
狢(むじな)「知ってる。いわしの頭も信心から、ってやつだろ? いわし、拝んでから食べたほうがいいか?」
狐(きつね)「拝んでも無駄だって。」
狢(むじな)「いわし、丸かぶりしたほうがいのか?」
狐(きつね)「そりゃ、関西の丸かぶり寿司だろ。いわしじゃないよ。」
狢(むじな)「でも、いわしの丸干しと大豆で、人間はいったい何をしているんだ?」
狐(きつね)「鬼除け。」
狢(むじな)「鬼除け?鬼寄せの間違いじゃないか?」
狸(たぬき)「そうだよな〜、きっと、この匂いに誘われて、鬼も冬眠から覚めてきちゃうぜ。」
狐(きつね)「鬼は冬眠しないよ。」
狸(たぬき)「鬼を匂いで誘ってだな、近づいてきたところで、煎り豆を投げつけるのよ。」
狢(むじな)「なるほど。いわしをおとりにして、鬼を威嚇するのか。」
狸(たぬき)「しかも、いわしにはひいらぎの葉が付いているんだ。」
狢(むじな)「え、ひいらぎの棘は危ないな。うっかりいわしを食ったら、怪我をするだろ?」
狸(たぬき)「うまい魚には棘があるって、いうだろ?」
狐(きつね)「・・・?」
狸(たぬき)「ま、節分はとにかく、めざしと煎り豆で一杯!」
狢(むじな)「酒は鬼殺しでキマリ!」
狸(たぬき)「そういえば、最近、鬼を見かけないな。冬眠してるかと思ってたんだけど。」
狐(きつね)「あいつら、神社で節分のバイトだってさ。」
注釈・めざし→いわしを干したもの。内臓を抜き、目のところに縄を通して干したことから。日本人の食卓に古くから上る食材。
「狸と狐が占い話」は不定期更新です。鎮守の森の裏手を、たまに覗いてみてください。