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旬の食材、安い、うまい、でも早くはない

 我が家の料理のモットーです。
 安い!…苦しい家計をやりくりする必要があるので。うまい!…そりゃおいしい物を食べたいわけで。でも…早くはありません。
 家計を切り詰めるには、どうしたって安い食材。ただし、安かろう悪かろうは不可。単に値段が安いという意味ではなく、すべてを含めて安く品質の良い物…。実はそれは案外簡単。旬の食材に注目! 旬の食材は、安いだけでなく、栄養価も高く、品質が良いという、完全にお得な食材ですから。
 これはスーパーマーケットに行けば一目瞭然で、本日大安売りでキャベツが買えるのは春。夏は大量に積みあがった茄子。サツマイモ1袋特価は秋。各店舗が白菜の値段を競って勝負するのは冬。となれば、旬の食材を使った料理が一番安い!
 しかも、大量買いがお得。というわけで、我が家は2人暮らしですが、キャベツは丸ごと1個。果物は訳アリを1箱買いが得意パターン。訳アリのリンゴは台風一過の後に東北から出荷されたものだったこともあります。泥ねぎが安いというのは、ほとんど誰でもが知っていることですが、しかし10〜20本と大量なので、これ、食べきれないんじゃないの?と、みなさん、思わず腰が引けてしまうみたいですね。泥ねぎ、我が家ではためらわず「買い」です。泥ねぎを我が家に連れ帰るやいなや、まずは、緑色のところと白いところを切り離します。緑色のところが早く痛むわけですから、こちらを保存できれば問題ないわけで。緑色のところを洗い、キッチン鋏で細く切る。そして炒める。炒めたら、ビンに入れて保存。これはチャーハン、ギョーザの時に大活躍!もちろん、冷凍保存もできますよ。
 白いところは洗いません。泥をつけたままで袋に入れ、袋の口をあけて土間か玄関にたてかけておけばけっこう持ちます。お庭がある場合には、日陰の片隅にねぎを新聞紙でくるんで根に土と水をかけておくといいでしょう。(ただし、凍土になる寒冷地では無理。)
 大量に買い込んだ後は、とにかく保存用の下ごしらえ。この、ねぎの緑色のところを千切りにする作業ですが、キッチン鋏でもけっこう時間がかかります。キッチンで立ったままでは腰が痛くなるので(つまり、腰が痛くなるぐらい時間がかかるので)、私は座って作業します。
 
 我が家では、肉もキロ単位で。たとえば豚のバラ肉を1キロ買ったら、3つに分け、塩を振り、パックして2つは冷凍、1つはチルドルームに。3分の1だけ挽いてくれますか?と、肉屋さんに交渉して荒挽き肉にしてもらったこともあります。骨付きのまま買えばもっと安いと肉屋さんで聞きました。骨付きのほうが、スープストックにもなるので、あれば骨付きで買い、自宅で小分けにしたほうが断然お得です。問題があるとすると、大鍋が必要なことぐらいでしょうか。(ところで豚肉も季節によって値段が違うのですよ。生産地へ行くとわかります。)
 

画像:旬の食材、安い、うまい、でも早くはない


 魚も、魚市場で大量購入。…でも、魚は待ったなしの加工が必須。以前、魚市場でバケツ1杯分400円の背黒いわしを買いました。(半分でいい、と言ったのですが、半分?面倒だから1杯分しか売らない、と言われまして。)
 わたを取って開くのですが、なんと小さないわしが218…だったっけかな。背黒いわし約200匹さばくのは、さすがに大変。でも、いわしはキッチン鋏ひとつでできますから、わりと楽。もちろん、座って! 時間はけっこうかかり、最後のほうは飽きてきました。でも、開いたいわしに小麦粉をつけて両面焼き、マスタードソースで食べると、んん〜んまいっ! いわしの小麦粉焼き、原価は安い。200匹で400円なんだから。まさに破格。といっても、あれはたしか春先のことで、大量にいわしが取れた日にあたっていたんでしょう。
 とにかく、安い、うまい!の典型。でも、早くはありません。なぜならこの料理を食べるためには、まずは魚市場まで出かけていく必要あり。買って帰ってきたら魚をさばく必要あり。そしてそれからようやく料理。(料理は早い。小麦粉つけて焼くだけ。よけいな下味も必要なく、新鮮ないわしの塩気だけで充分!)
 一度に食べる量としては、一人20匹…ぐらいが限度かと。食べきれなかった分のうち、40匹ぐらいは料理用ワインを振りかけて、チルドルームに。しかし、それでも残った100匹以上。半分は、シートを挟んで冷凍に。半分は大きな骨をとってつみれにしてから冷凍にしました。
 
 我が家の庭に生える野草はかなり重宝している旬の食材なのですが、それも下ごしらえから。
 蕗を例にとりましょう。まずは刈り取る。根元から切り、葉を落とす。だいたい50本ぐらい刈り取って、そして皮を剥く。皮を剥いたら切る。私は蕗の長さを切り揃えます。使っている保存容器の横幅に合わせて切るのです。こうしたほうが大量に保存しやすく、その後の料理もしやすいので。
 そして茹でる。20分ぐらい茹でたら冷まし、冷めたら茹で汁ごと、保存容器に入れます。
(注・蕗は水にさらすよりも茹で汁の中につけておいたほうがアクが抜けます。アクはアクで抜くのです。私は祖母に教わりました。また、茹で汁につけておくと、保存料なしでもチルドルームで数日間持ちます。茹で汁のアクが保存料の代わりをするらしいのです。茹でた蕗は冷凍はできません。)
 とまあ、下ごしらえで3時間ぐらいはかかりますかね。その後は、もっと短く切ってごま油炒めにしたり、薄切り肉で巻いて煮たりしておかずにします。旬の食材だからおいしいのですが、ただし、本当においしいのは5月から7月前半ぐらいまでの期間限定です。夏の蕗は硬すぎ、冬はどんなに食べたくても、ないので食べられません。
 
 料理とは、まず時を含めた食材の見分けがあります。時知らずの食材は高いのです。(注・トキシラズは、遡上前に海でとれる鮭を指す言葉でもありますが、実際、トキシラズはお高い!)
 そして、食材を選んだ後には、下ごしらえ。下ごしらえの覚悟をするだけで、確実にエンゲル係数は低下します。下ごしらえにかかるのは、時間と手間。ですが、基本の包丁の使い方ぐらい覚えておけば大丈夫。だいたい、200匹も魚をさばいているうちに、下手もいつしか上手になりますって。料理は慣れ。飽きる頃に上達するのです。安い、うまい、でも早くはない、を私と一緒に実践しませんか?
 
 さて、私は文筆業です。文筆業っていいよね、原価0円だから、と他業界の人に言われたことがあります。が、そういうわけでもありません。資料代も必要ですし、知識も学ばなくてはなりません。だいたいタダで人の畑の作物を勝手に持ってくるわけにはいかないのです。野草の採取だって他人の土地に踏み込んでの採取は違法です。さらにはその後、下ごしらえにかなりの時間が必要。打ち合わせ、企画出し、書き直し。延々と時間と手間がかかります。しかも、版元がお金を出してくれる場合には、気にいらなければ容赦なくつき返されます。読者にとって面白くない内容であれば、売れないこともあるでしょう。とにかく、好きなことを好きなように書いて簡単に原稿料をいただいたことは、私はありません。著作権が存在し、それなりに手間がかかり、作品を完成させるまでに紆余曲折、売れるかどうかも賭け、それが仕事なのです。
 しかし最近、それ以前に、加工食材や遺伝子操作された野菜のようなものを取り込んでいる文章が多くなっている気がします。無料で発信されているから勝手にコピーしてもいいんだろう、と乱暴に集められた素材たち。無料でも著作権はちゃんとある、誰だって知っていることなのに。早く完成させるために加工食材を使うことも料理の世界ではあるわけですが、しかし限度というものがあり、素材提供元への配慮も当然あるべきです。スーパーマーケットの店頭での試食会は、消費者(エンドユーザー)に対してしていることで、他社バイヤーに対してしていることではありません。だいたい、コピー食材の世界、果たしてそこに本物の味はあるのでしょうか? いつの世もこだわりの自給自足は難しい、それが生産者たるクリエイターの宿命なのかも知れない、と、私は食材の下ごしらえをしながら、なんとなく考えてしまいます。
 とにかく、旬の食材は素晴らしい。だからこそ、生産地を知った上で、きちんと下ごしらえの手間をかけ、しかも誰が作っているのかがわかる安心の料理で、心身を癒したいものですね。

占術研究家 秋月さやか


参考資料:
旬の野菜と魚 サライ編集部 小学館
写真:素材辞典

筆者エッセイ > 旬の食材、安い、うまい、でも早くはない

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