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ボク、ホトトギス

 ホトトギスという鳥をご存知でしょうか。
 ホトトギスの声は、夏を告げます。歳時記では初夏の季語。
 この鳥、昼間も鳴きますが、夜にも鳴きます。それも深夜。あたりがしんと静まり返った闇の中で、高らかに鳴くのです。 「ボク、ホトトギス! ボク、ホトトギス!! ボク、ホトトギ〜ッス!!!」
 ああ、自己主張全開。どう考えても、風情のある声とは言い難いのですが。
 古来、「ホット、ホトトギ」という鳴き方から、ホトトギと鳴く鳥(スは鳥を意味するのだとか)、ということで、ホトトギスという名前になったとされます。
「ボク、ホトトギス! ボク・・・」という声が聞こえてくると、なんと自己主張の強い鳥なんだと思ってしまいますが、よく考えてみると、縄張りを守るための威嚇も、求愛も、すべて自己主張ですね。
 

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 和歌や俳句でも、ホトトギス(時鳥)は、夏の夜、そして明け方に鳴く鳥。百人一首にも登場します。
「ほととぎす 鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる」(後徳大寺左大臣・藤原実定)
 この有名な歌の味わいは、素っ頓狂でつれないほととぎすの声(声だけで姿が見えない)と、静かに浮かぶ有明の月の、絶妙なとりあわせ。
「夏の夜は まだ宵ながら明けぬるを 雲のいずこに月宿るらむ」(清原深養父・清少納言の曽祖父)
 こちらの歌には、ほととぎすという文字はありませんが、たぶん、ほととぎすの声に気づいて外を眺めたら、いつのまにか空が白み始めていた、という情景を詠んだのでしょう。
 
 どちらかという夜型の我が家では、あまり害のない鳥なのですが、ご近所では、ホトトギスは不評。深夜、いきなり高らかに鳴きだし、安眠妨害だとか。
 ご近所のホトトギスは、「テッペンカケタカ」と鳴くのだそうです。ホトトギスにはいろいろな鳴き方があるのですが、テッペンカケタカは、その中のバリエーションのひとつ。意味不明なのですが、高い木のてっぺんが欠けたか?あるいは、てっぺんに何かを掛けたか?という問いかけに聞こえるようで。
 ご近所宅のマダムは、真夜中に「テッペンカケタカ?カケタカ?」と鳴き続けるホトトギスに、「はい、欠けた!欠けたから、もう黙って寝ようよ〜」と愚痴るのだとか。
 その他にも「ホウチョウカケタカ?」「トウキョウトッキョキョカキョク(東京特許許可局)」というバリエーションもあります。
 
 で、ホトトギスの写真を撮ろうとしても、なかなか撮れません。古くから、姿より声の鳥。私も姿を見たことがないんです。図鑑で写真を見て、え〜っ、こんな鳥、見たことないよ、という感じ。
 
 さて、ホトトギスがようやく静まった頃には、短い夏の夜は明け、あたりはすっかり明るくなります。すると今度は、アオゲラが家の壁をノックします。
 う〜ん、このアオゲラの早朝の来訪、我が家では結構辛いんですけど、高原の別荘地では、皆さん、案外、歓迎みたい。

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参考文献
新編歳時記 水原秋櫻子 大泉書店
日本の野鳥図鑑 野山の鳥 国松俊英/文 偕成社
素材辞典(写真)

筆者エッセイ > ボク、ホトトギス

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