風の音の中に、雪の表面が軋んだような音が浮き上がって聞こえてきます。軋んだ音どうしが、さらに共鳴しています。なんとも不思議な音なのです。音叉の共鳴音があちこちで鳴っているような、と書くのがせいぜい。響いては消え、消える前に次の音が響きはじめる。それがあちこちから、です。
風の中にも何かが共鳴しています。そして何か言っています。おお〜、おまえはあ、ううあ、だなあ、おおう、だろうよお、ああ、だからなあ、そうだあ、だろう? そんな感じです。風の音が声に聞こえるなんて、よくあることでしょう。でも、私の耳には、もっと意味のある言葉として聞こえたのです。「え?なんですって?それは・・・」思わず私は耳をすましていました。しばらくの間、時間が止まっていたように感じられました。もっと聞くべきだったのかも知れませんが、これ以上は危険だと感じました。風が強さを増してきていましたから。
ああ、これが神のイメージなのかも知れない、とその時私は思いました。光のなかでまぶしくて姿は見えない。めったに近づけない世界。(古代の人々は、冬のさなかにわざわざ雪山に登ったりなんて絶対しなかったはずです。)ものすごい風圧で近づくことなどできない。そして不思議な音と声。
強い風の中です。バランスを崩すと滑落しそうなので、ストックを握ってゆっくりと歩きながら移動。とんでもなく時間がかかり、その間に、とうとう吹雪いてきました。昼間、あんなに晴れていたのに、風なんてまったくなかったのに、ですよ。吹雪の中、どうやって下まで滑って降りたのか、思い出せません。というわけで、2度とあんな体験はできないだろうなあ。初心者のみなさ〜ん、気をつけましょう。私のスキーの足前は、動物のお医者さんの菱沼聖子レベルです。
秋月さやか