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ちょっとお茶でも・・・歴史が動く

 お茶でも飲みたいなあ、というのは息抜きしたい時。お茶でもどう?と人に声をかけるのは、気軽にお話しませんか?という時。茶飲み話といえば、他愛もない会話。茶飲み友達といえば、プライベートでおしゃべりする人たち…。
 
 喉の渇きを潤すだけなら水で事足りるだろうに、しかし人はお茶を飲みたがる。お茶は、体への水分補給というより、心の潤いのためにあるのだろう。お茶といえば、コーヒー、紅茶、緑茶、烏龍茶、ハーブ茶…。コーヒーはお茶じゃないでしょ、と言われるかも知れないが、ここでいうお茶は、いわゆる嗜好飲料、喫茶としての飲み物。そういう意味では、ジュースもアルコールも、ミネラルウォーターも喫茶飲料に含まれる。そして、嗜好飲料の中で、最も消費量が多いのは紅茶なのだそうである。コーヒーの需要は紅茶よりも少ないなんて、意外でしょ?
 
 さて、お茶の歴史は古い。神農伝説によれば、お茶の誕生は約5000年ほど前。神農とは、中国の伝説の人物で、文字通り、農業を広めた神であり、薬の神でもある。神農は、「水は生のままではなく、煮沸して湯にし、安全にしてから飲むように」と人々に教えた。ある時、湯を沸かしていると、薪についていた葉が数枚、湯に入った。これを飲んだところ大変美味であったという。それが茶の始まり。その木の名前は茶、カメリア・シネンシスである。その後、茶の葉を干したり炒って乾燥させることで、茶葉の保存や持ち運びもできるようになっていく。三国志の中で、劉備玄徳が、母のために大枚をはたいて高価なお茶を買うという場面がある。ここでのお茶は、長生きの薬であり、高価で貴重な物の代表として登場する。その後、お茶は中国から日本に伝わるが、長い歴史の中で、お茶文化は東洋を中心に発展していったのである。
 

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 17世紀初め、オランダ人が中国と日本で茶を買い付け、ヨーロッパに初めてお茶を持ち込んだ。「東洋の秘薬」という触れ込みで。が、当時のお茶は、烏龍茶と緑茶。烏龍茶はBlackTeaと呼ばれた。緑茶(GreenTea)に対して葉が黒く見えるという意味でのBlack。(注・烏龍茶は青茶に区分されるが、BlueTeaという英訳はなされなかった。)当時、まだ紅茶はなかった。紅茶は、その後、中国で下級烏龍茶から作り出された新種のお茶。簡単に言えば、(どうせ西洋諸国に売りつけるんだから)安くテキトーに作ればいいや、とした過程で、結果的に紅茶が生まれてしまったのである。紅茶が烏龍茶から生まれたからなのか、紅茶もBlackTeaと英訳される。RedTeaではないんですね。しかしながら、紅茶はたちまち人気者に! テキトーに作っていたはずの紅茶の製法も次第に洗練され、いつしかお茶といえば紅茶!と、西洋諸国は紅茶を指名するようになっていく。
 
 お茶の輸入がオランダに独占されていたことに不満を抱いたイギリスは、オランダに戦争をしかける。お茶争い。そして18世紀後半、アメリカ合衆国が独立したきっかけもお茶。イギリスが当時植民地だったアメリカの紅茶に高い税金をかけたため、お茶の不飲運動が起こった。アメリカでコーヒーがよく飲まれるようになったのは、紅茶にかけられた高い税金のせいだったという説まである。そんなこんなで起こったのが有名なボストン茶会事件であるが、私は小学生の時、教科書を読んで「これはきっと独立前のボストンの屋敷で、お茶会の時に起こった暴動に違いない!」と思った。しかし、その真相はもちろん違う。これはなんとも乱暴なお茶会で、お茶を味わったのはボストン港の魚たち。お茶が引き起こした戦争。世界の歴史を大きく変えたお茶。
 信長の時代、茶器に莫大なお金をかける日本人を、不思議そうに眺めていたという宣教師たちであるが、アメリカ独立の宗教戦争の裏にお茶も絡むことになるとは…思ってもいなかったに違いない。
 
 お茶でもどうですか?という言葉は、本来、友好の印なのであるが・・・。お茶を飲みながらの政治的駆け引き。一服点てるのか、一服盛るのか。茶匙(茶勺)を見るたびに私は思う。
 私は高校時代、茶道部に属していたことがある。それはお茶が点てられれば、海外に行った時に役立つだろう、と思ったから。空手はできないし、日舞も算盤も習わなかったので、ま、せめて茶道でも、と。
 日本の場合、茶会は丸腰で出かけなければならないという決まりがあり、もちろんそれは、西洋諸国でもそうだったらしい。
 が、とにかくお茶を飲む時間ぐらいは、憩いたい。何も考えずに。にじり口を入ったら、そこは異界。たとえ茶室の中でなくても、お茶を飲む時、その周囲には結界が張られているのが理想、などと考えながら、私は今日もお茶を飲む。朝はコーヒー、午後からは紅茶、そして夜は緑茶(時々烏龍茶)が私のパターンである。

占術研究家 秋月さやか

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