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郷愁のトウモロコシ

 子供の頃、祖母が畑を作っていて、夏になると、紫と白のトウモロコシが実った。粒が大きく、もっちりして、甘みはやや少ない。
 その畑を宅地にして家を建てることが決まり、「ずっと作ってきたトウモロコシだけど、今年でおしまい」と祖母は言った。
 そのトウモロコシは、祖母の実家(農家)で作っていたトウモロコシの種を受け継いで毎年作っていたものだった。祖母の実家は江戸時代より前から続いている農家で、明治時代からずっと、その紫色の品種を作り続けてきていたらしいのだが、もうその頃には、実家では紫色のトウモロコシ作りはやめており、かなり珍しい品種だったようだ。
 「もう、この色のトウモロコシを作っている人はどこにもいないでしょう」と祖母は言っていた。
 その後、いろいろなところでトウモロコシを食べたが、たしかに紫と白のトウモロコシには、まったくお目にかからない。
 

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 さて、トウモロコシは、地場産物を地元で食べるに限る。お取り寄せも魅力だけど、私は、食べに出かけるのが好きである。
 「とうきび」の看板を見逃さないようにしながら走る夏の北海道。トウモロコシ街道に漂う焼きトウモロコシの香り。
 
 8月、釜石の橋上市場に、牛乳瓶ウニ目当てで出かけていた時期があって、その市場では、トウモロコシもよく買った。
 市場の入り口近くの店先では、大きな鍋の中に、皮付きのままのトウモロコシが放り込まれていた。
 「このあたりでは、トウモロコシは皮を剥かずに茹でるの?」と聞くと、「皮むいたら、水っぽくなっちゃうでしょ」というお答え。ご当地ならではの調理方法なのでしょう。
 仕事が忙しくなり、夏の旅行などまったくできなくなってから何年かたった頃、橋上市場がなくなったという話を聞いた。別な場所に移転した店もあったというけれど、あのトウモロコシの店はどうなったのだろう。
 
 最近のトウモロコシは、品種改良が進んで、たしかに甘く柔らかい。生で食べても大丈夫なぐらい。でもたまに、昔の味のトウモロコシが食べたくなることがあります。

秋月さやか

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