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巣立ちは悪天候の日に

 我が家の庭には、鳥の巣箱が幾つかかけてあります。
 庭には、たくさんの鳥がやってきます。が、換気扇や郵便ポストの中に巣を作ってしまう鳥もいると聞きました。それは困るので、そうならないための備え。巣箱があれば、そちらに巣作りをしてくれるはずですから。
 
 野鳥に詳しいご近所さんに聞きましたら、鳥の種類によって、巣箱の出入り口の直径が違うのだそうです。このあたりでよく見かけるエナガの巣箱の出入り口直径は3センチだとか。
 巣箱の手作りを勧められましたが、う〜ん、それは難しそう。
 ホームセンターで、セキセイインコの巣箱を買ってきて、それを庭の木に括り付けてみました。出入り口の直径は4センチ弱あり、エナガよりも大きな鳥が入るはず。
 
 はたして、雪解けの頃から、ヤマガラやシジュウガラのカップルが巣の下見にやってくるようになりました。まだ木の葉が少ない時期なので、その様子は良く見えます。2羽で、出たり入ったり。
 「ここにしましょうよ」と言わんばかりに、巣箱にちょっと木の枝を運び込んだりしながらも、次の日には、また他の巣箱へ行ってしまうカップルもいます。
 
 良い位置にある巣箱は競争率が高いのです。他のカップルが割り込んできて、先にやってきているカップルを追い出してしまうこともあります。雄同士が、相手を追いかけ、威嚇することもあります。
 
 まあ、いろいろあって、いよいよ巣作りの場所が決まります。木の枝や獣毛などをせっせと運び込む鳥たち。我が家の愛犬(ゴールデンレトリーバー)の毛は巣作りに人気で、ベランダに落ちている犬毛を、小鳥がさっとくわえて飛んでいく姿を良く見かけました。
 
 そうこうしているうちに、緑が巣箱を覆い隠すようになります。
 そうなると、卵から雛が孵り、忙しい子育ての期間に突入。が、この頃、鳥の姿を見ることはほとんどなくなってきます。葉に隠れて見えにくくなるだけでなく、用心深くなるため、その姿をなかなか見せないのです。
 さっと巣から出ると、すぐに飛び立っていってしまいます。巣に戻ってくる時にも、他の生き物(人間も含む)に見つからないように、ささっと入ってしまいます。玄関前にひとつ巣箱があるのですが、私が玄関を出入りする際、親鳥(ヤマガラ)から、ほとんど威嚇するように鋭く鳴かれたこともあります。
 私、雛を狙う蛇や狐じゃないっつ〜のに。

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 何週間かそんな日々が続き、いよいよ雛の巣立ち。しかし、我が庭にある巣箱というのに、その巣立ちの姿さえも、なかなか見ることができません。
 それもそのはず、巣立ちは、天候が荒れている時に決行するのだそうです。理由は簡単。他の生き物に見つからないようにするため。巣立ちは、悪天候の日に。
 
 昨年、もうそろそろ巣立ちのタイミングではないか、と思いながら、巣箱を数日間、観察していたことがあります。
 ある日、嵐がやってきました。初夏の嵐です。まさかこんな日には巣立ちしないだろうと思っていたら・・・昼過ぎ、「ピーーーッ」という鋭い鳴き声があたりに響き渡った、と家人が言います。風雨の中ということもあり、巣箱の様子はよくわかりません。若鳥が飛び立った姿は見えず、「巣立ち?でもまさか?」と首を傾げました。
 次の日、巣箱を見ると、ひっそりしています。しばらく見ていても、誰も出入りしません。思い切って巣箱をあけて見たら、木の枝や獣毛で作ったクッションと、ほんの少しの鳥糞が残っているだけでした。やはり昨日、巣立ちしていたのです。
 
 巣箱の大家としては、ちょっと寂しいような気分に・・・。
 
 しかしそれから数日後、嘴の黄色いヤマガラが、近くの木に数羽止まっていたのを見た、と家人。どうやら、我が家の巣箱で生まれ育った若者たちの姿のようです。餌が豊富な森の中ですから、そんなに遠くに行く必要もなかったんですね。
 なんだか安心したような気分になったりして。
 
 鳥たちの自立を見守りつつ、今年、社会人になった方々にも、エールを送りたいと思います。巣立ちは悪天候の日に。といっても、それは鳥たちとはやや違った意味で。悪天候を乗り切ることができれば、必ずいつか晴れ間もやってくるからです。

秋月さやか


参考資料:素材辞典

筆者エッセイ > 巣立ちは悪天候の日に

 
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