秋月さやか公式サイト:占星幻想館
秋月さやか公式サイト

秋の夜空に沈むカササギ

 天の川に十字の星並び、白鳥座。北十字と呼ばれるぐらい目立つ星並び。ギリシャ神話では白鳥になぞらえられますが、アラビアでは鷲。古代中国では「かささぎ」。古今東西を問わず、この星並びは翼を広げた鳥の姿を連想させるのかも知れません・・・。
 
 かささぎの 渡せる橋におく霜の
  白きをみれば 夜ぞ更けにける (中納言家持)
 
 宮中の階段(きざはし)に霜が白く降りている、ああ、晩秋の夜更けなんだなあという歌なのですが・・・。「かささぎ」の渡せる橋というのが、白鳥座。古代中国の星の伝承では、牽牛、織女が天の川を渡って一年に一度、逢瀬を重ねるために、「かささぎ」が連なって橋になったといいます。これが本当の橋渡し! ただし、その解釈でいけば、多数の鳥が翼を広げて繋がっているわけなので、巨大な1羽が天の川に翼を広げているという図にはならないのですが。しかし、星並びからしたら、どう考えても巨大「かささぎ」の姿だよなあ。
 古代中国では、白鳥座γを中心とした星並びを船着場とみなし「天津」と名付けています。その天の川の橋を、宮中の階段(きざはし)と対比させて歌を詠んでいるのです。天の橋、そして地の橋。御所のきざはしを地上の中心として、広大な天を巡る星を眺める。橋といえば、異界と現実世界を繋ぐものであり、地上と天空との対比の歌には、いかにもふさわしい。
 
 白鳥座は、天頂近くにあるので、大火(アンタレス)や南斗六星が沈んでもまだ、秋の夜空に輝いています。でも、いよいよ秋が深まるにつれて、やはり北西の空に傾きつつある。そして、牽牛と織女が逢うことも、もうない。すでに牽牛、織女は沈んでしまっているからです。恋人を訪ねることもない冷えこんだ心をあらわしている秋の歌としては秀逸!と私には思われるのですが・・・。
 白鳥座という夏の星座が登場するためか、この歌は、季節感がないと評されることもあるようです。七夕は夏の風物詩ですし。といっても、白鳥座は夏だけに輝く星座ではありません。秋には秋の風情があるわけです。まあ、このあたりは、星を眺めている人にしかわからない天空の移ろいなのでしょう。現代人は、古代人に比べたら、ほとんど夜空を眺めませんからね。京都御所から北西の方角というと・・・そこには山。しだいに寂しくなっていく晩秋の山でしょうか。その山陰に隠れていくような星並び。

画像


 「かささぎ」の実物ってみたことないなあ、と野鳥辞典を探しました。鷺だから、さぞロマンチックで白い鳥なのだろう、鶴やトキみたいかな、と想像したのですが・・・いえ、かなり違う。だいたい鷺のほとんどはコウノトリ科ですが、「かささぎ」はカラス科。白黒くっきりと分かれた二色の羽。そう、白黒カラスなのです。そしてヨーロッパの民間伝承では予言をする鳥です。カラスの仲間なわけですから頭が良い。そして、コウノトリのように、民家近くの高い木の上などに目立つ巣を作る習性があるといいます。「原色日本野鳥生態図鑑」によりますと、現在、「かささぎ」は九州では留鳥ですが、それ以外の地域では見ないのだそうです。もともとは日本にはいなかった鳥で、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際、朝鮮から持ち帰ったという説が有力。
 
 風土記には「かささぎ」が登場する場面があるのですが…。播磨国風土記、引船山に鳥が住み、人々はこれを「韓国(から)の鳥」と呼んでいたといいます。「からさぎ」だったのかも知れません、たぶん。枯木の穴に棲み、春にはその姿を見かけるが、夏には見かけない、と。つまり、風土記に記載されるぐらいめずらしい存在。ただそれが本当に「かささぎ」であったかどうかは不明で、たぶんアオサギだったのだろうという説が有力です。なぜなら、源氏物語にある「寒き洲崎に立てるかささぎの姿」は、アオサギのことを意味しているというのが定説です。アオサギを「かささぎ」と思い込んでいたのだろう、ということ。ああ、なんてまぎらわしい話なんでしょう、サギだけに・・・。
 そして名前ですが、これは一説には朝鮮名でカチと呼ばれており、それにサギがついたカチサギという名前で呼び始めたのが、いつのまにか「かささぎ」に転じたという説があります。推古天皇の時と、天武天皇の時、新羅から本物の「かささぎ」が献上されたという記録があるそうです。つまりそれは当時の韓国語でカチと呼ばれていた鳥だったのでしょう。しかし、本州では繁殖はしなかったようです。そして、いつのまにかカチサギ→カササギとなった名前だけが一人歩きして・・・。人々は、その鳥が、アオサギに似た姿の優雅な鳥であると思い描くようになってしまっていたのではないでしょうか。たぶん中納言家持は、見たこともない「かささぎ」を想いうかべながら、天の川にかかる鳥の歌を詠んだのでしょう。「かささぎ」は留鳥なのですが、もしかしたら、渡り鳥のようなイメージで考えていたのかも知れません。つまり、秋になると飛び去ってしまう渡り鳥。それが、西の空に傾きながら沈んでいく星並びに重ねあわされていたのでしょうか。

秋月さやか


参考文献:
 百人一首(別冊太陽) 平凡社
 原色日本野鳥生態図鑑 保育社 中村登流・中村雅彦 共著
 星座ガイドブック 春夏編 誠文堂新光社 藤井旭著
 中国の星座の歴史 雄山閣 大崎正次著
 風土記 吉野裕訳 東洋文庫
 野鳥ガイド 唐沢孝一 新星出版社
 素材辞典 「かささぎ」の画像

筆者エッセイ > 秋の夜空に沈むカササギ

 
この記事のURL