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漬物石の拾い方

 私の祖母は明治女だった。明治のほとんど終りに近い頃、かろうじての明治女だったけれど。
 祖母の実家は、江戸時代より以前から続いている農家で、祖母も農家の女性の台所仕事をすべて教えられて育ったという。
 納豆、梅干、味噌、ラッキョウ漬け、干し柿、切り干し大根、そして米麹の甘酒の作り方。納豆以外は、作っている現場を、私は子供の頃に何度も目にした。私の母はまったく料理がダメな人だったけれど、祖母は上手だった。そして、折に触れて、いろいろなことを教えてくれた。
 
 さて、祖母に教えられたことの中で、最近私が気になっているのは・・・。漬物石の拾い方である。
 漬物石は、やわなものはダメ、しっかりした石を拾わなくてはならないのだそうだ。
 
1、漬物石は川原で拾うように。
2、真ん丸な石は避ける。座りが悪い。少なくとも、片側は平べったくなっている石を。
3、塩に会って溶ける石はダメ。
4、自分がなんとか持てる重さのものと、やや軽いもの、2〜3つあるとよい。

1についてだが、地中から出てきた石は汚れているので、ということらしい。 3はかなり重要である。「塩に会って溶ける石って?」と聞いたら、「柔らかい感じの白っぽい石」ということである。「黒っぽく、墓石の色に近い硬い石なら溶けない」そうである。おそらく玄武岩とか?
 
 我が家にあった漬物石は、いったいどこの川原で拾ったものだったのか? 裏口の軒下に、いつも漬物樽が置いてあり、その上に乗っていた石。しかしその石は、母が亡くなってしばらく後、父の転勤に伴う引越しの際に処分されてしまいそうになり、祖母が持っていったと記憶している。あの時を境にして、私は祖母の漬物を食べなくなった。
 
 漬物石は大切。と、祖母は言っていた。ある意味、それは要石。しっかり、どっしり、要石がないと、家が守れない。漬物石はまさにパワフルストーンなのだ。あの時は、その意味がよくわからなかった。しかし、私も主婦になって久しく、最近、なんとなくその意味がわかるようになってきた(・・・ような気がする)。
 
 白菜漬けも、たくあんも、私は長らくの間、ほとんど食べなかった。が、最近、漬物が食べたくなってきて、たまに自分で作るようになってきたのだ。ただし、それは一夜漬け用の小さなガラス容器で、冷蔵庫に入れて使用する。
 

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 そうだ、今年は白菜を漬けよう。大根でもいい。昔、祖母がやっていたみたいに。
 そう思って、昔、祖母がしていたことを思い出してみた。
 漬物樽はないけれど、ポリバケツで漬けることもできる、と言っていたし。
 しかし、問題は漬物石である。
 そこで、地元の知人に聞いてみた。喫茶店経営のマダム。手作り食品が得意。パン、ジャム、漬物・・・さまざまな手作り食品を、日頃からいろいろと頂くのである。
 
 「ねえ、漬物石って、ある?見せてもらえる?どこで拾った?」
 「漬物石ねえ。拾わないわよ、買ったの。だいたい、見せるほどのものじゃないって。見たかったら、ホームセンターに行ったほうが早いわよ」
 
 そこで私はホームセンターに出かけた。
 なんだ、どこにもないじゃないの。もしかして、エクステリア(園芸用品)売り場? 
 うん、この薄べったい石ならなんとかなるか。これ、庭の敷石ね。かなり高いなぁ。塩に会っても溶けないかなあ?店員さんに聞いてみようっと。
 と、重い敷石を手にしながら売り場を歩いていたら、意外なものを見つけた。
 「漬物重石」である。 なにこれ?もしかして?
 
 毎年、冬になると、なぜかアイスカーリング用品がホームセンターに並んでいると私は思っていたのだが・・・。それは、冬季限定のホームスポーツなのかと、ほとんど気にも止めないでいたのだが・・・。
 そうではなかった。このプラスチック容器の重しは、漬物用の重しだったのである。持ち手もついて、キッチンダンベル体操ができそうな感じ。やっぱりスポーツ用品にしか見えないけれど。
 
 ああ、昔の漬物石はどこへ行ったのだろう。私は叔母に電話で聞いた。長らく兼業主婦の叔母は、家で手作り用食品を作ることはほとんどなかった。
 
「あのね、おばあちゃんが使っていた漬物石、まだある?」
「ああ、あれね、たぶん庭にころがっているけど?」
「今度行ったら、あれ、ちょうだい。」
「え? 何に使うの? 猫の墓石? 仏像でも彫る気? 何かのおまじない?」
「まさか。漬物に決まってるでしょ」
「あんなものでぇ? 物好きな。今はね、プラスチックの重しがあるんだから、あれ、買いなさいよ」
 
 と、叔母にも言われたけれど・・・なんだかなぁ。
 いっそ、あの園芸用品の敷石を洗って、漬物石にしてみようかな。

秋月さやか

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