筆者エッセイ
夏の七草にまず詠むべきは蕗なり
もしも夏の七草があるとしたら、その筆頭は蕗に違いない。蕗は日本原産の植物で、万葉の時代よりも前から日本人は蕗を食していた。今、和食に使用されている多くの野菜は、そのルーツを辿ってくと、なんと外来種なのであるが、蕗は間違いなく、日本古来の植物の代表! 日本料理の基本のような野菜と堂々と名乗ってもいいのが蕗。万葉に、蕗を詠んだ歌などない、とか言われそうだけど、あまりにもあたり前の食材だったので、歌に詠むほどのことではなかったんだろう、などと考えてみたりもする。
春のふきのとうに始まり、立夏前の土用の頃になると、蕗の柔らかい葉がちょろちょろと地面に広がり始める。産毛が生えているような小さな葉であれば、食することができる。姑は「蟻が蕗の葉に上がるようになる前まで」と言ったが、つまりは立夏前の若い葉なら期間限定で!食べられる。小さな蕗の葉は、とったらすぐに刻み、水にさらす。茹でる。冷めたら水気を絞る。そしてごま油で炒める。砂糖と醤油を入れて煮る。これで完成。ごま油で炒めるのは、アク味を和らげる効果があるが、アク味がお好きな方は、ごま油は省いてもいい。ただこれだけでできてしまう料理なのだが、スーパーで売っている蕗の葉を使ってもたぶんダメ。あんな固い葉で作ることはできない。デパ地下の名品店街で蕗の葉の佃煮の瓶詰めを見たことがあり、参考にと買ってみたが、なんだかやたらに甘辛すぎる代物だった。縮緬雑魚やごまと混ぜ合わせたり、彩を考えてか輪切り唐辛子が混ぜてあるものも見かけたが、まあ、このあたりは各自お好みで。私は蕗の葉だけでも充分においしいと思うけど。この時期、葉の下に細くついている茎は、ほとんどアクがないので、なんと、おひたしでも食べられるぐらい。
地面を蟻が這い回る頃になると、蕗は透き通った茎をぐんぐんと伸ばし始める。蕗の葉が地面を覆い、日の光をさえぎるので、蕗の茂みには下草が生えなくなる。かがみこんで蕗の茎の間を覗くと、ちょろちょろっと蛇が這っていったりする。蕗の茎を折ると、水がしたたる。昔、山歩きをしている人たちが、蕗の茎をかじって水分補給をしたという話を聞いたことがある。
この頃になると、葉は大きく広がり、固くなり、アクが強すぎてもう食べられない。茎は葉よりもずっとアクが少ないので、本格的に蕗の茎を食べる季節がやってくる。茎は下茹でしてアク抜きする。毎回、食べるごとにアクが強くなっていくのがわかる。それにつれて、アク抜きのために茹でる時間がだんだんと長くなっていく。下茹でした後の蕗の茎は、炒め煮。茹でた茎を適当に切り、ごま油で炒め、砂糖、醤油を入れて煮る。たまに油揚げや肉の切れ端などを入れる。万葉の頃は猪か雉肉の切れ端などと煮込んでいたのではないだろうか。
ただし、蕗が本当においしいのは夏至まで。夏至を過ぎ、夏の土用の頃になると、だんだんと味が落ちてくる。その理由は・・・なんと、夏の土用の時期になると、蕗は生長を止めてしまうのだという。そしてどんどん固くなっていく。立秋を境にして、蕗は食用には適さなくなってくる。まさに夏の草、蕗。
我が家の庭には大量に蕗が生えるので、知り合いのところに配ったり、ご近所さんに「どうぞ蕗を採りにいらしてください」と声をかけていた。それでもまだまだあるので、蕗の料理をいろいろと試してみたのだが、どうやっても、和風の味にしかならないことが判明。やっぱり蕗は和食の代表食材。
蕗の利用法をあれこれ考えているうちに、ふと思い出したのがアンゼリカ。クリスマスケーキとかに緑色の斜め切でついているアレ。アンゼリカ、どうやって作るのかな?ということで、文献を調べてみたのだが、その結果、アレは蕗ではないことがわかった。アンゼリカはシシウドの仲間だったのである。もっとも、アンゼリカの代用に蕗を使用した砂糖漬けというのも、なくはないらしい。「ほら、やっぱりできるに違いない」と考え、いちおうトライはしてみた。してはみたけれど・・・。まあとにかく、蕗を使った和菓子って、見かけないなあ。
さて、蕗の調理をみなさんが嫌がるのは、アクが原因。重曹を入れて茹でる人もいるけれど、採ってすぐに調理すれば、アクはさほどでもない。子供の頃、こいのぼりの季節が過ぎた頃になると、祖母が田舎から貰ったといっては蕗の皮剥きをしていた。私も一緒になって皮剥きをして、右手の親指の爪が真っ黒になったっけ。爪ではなくナイフを使って剥きなさいよ、とご近所の知り合いが教えてくれた。でも、私はやっぱり爪の先を使って剥いてしまう。
ここで私が書いている蕗は野蕗だけど、石蕗(つわぶき)も、同様に食用となる。伽羅蕗(きゃらぶき)は、石蕗(つわぶき)で作る、と祖母は言っていた。蕗の皮を剥かずに作る保存食なのである。で、アクを抜きすぎると保存効果が落ちてしまうので、日持ちがしないんだそうである。私は、蕗を茹でた後、しばらく取っておきたい時には、茶色いアク湯の中に浸したままチルドルームに入れておく。そう、ペーハー調整剤なんかまったく必要ないのよ。蕗の葉で食材を包むことがあるけれど、あれは保存を兼ねていたんじゃなかろうか。
だいたい、アクの強い野草には虫がつかない。だから、虫に食われる心配もなく、そして農薬もかけなくていい。野草のアクを抜いて野菜化したら、虫に食われるわ、農薬は必要になるわで・・・。多少のアクは必要なのである、人も野菜も。各々の個性と自立のために! ただし、アクが強すぎると、「やっぱり食えないヤツ」になっちゃうので、加減が難しいんだけどね。
春のふきのとうに始まり、立夏前の土用の頃になると、蕗の柔らかい葉がちょろちょろと地面に広がり始める。産毛が生えているような小さな葉であれば、食することができる。姑は「蟻が蕗の葉に上がるようになる前まで」と言ったが、つまりは立夏前の若い葉なら期間限定で!食べられる。小さな蕗の葉は、とったらすぐに刻み、水にさらす。茹でる。冷めたら水気を絞る。そしてごま油で炒める。砂糖と醤油を入れて煮る。これで完成。ごま油で炒めるのは、アク味を和らげる効果があるが、アク味がお好きな方は、ごま油は省いてもいい。ただこれだけでできてしまう料理なのだが、スーパーで売っている蕗の葉を使ってもたぶんダメ。あんな固い葉で作ることはできない。デパ地下の名品店街で蕗の葉の佃煮の瓶詰めを見たことがあり、参考にと買ってみたが、なんだかやたらに甘辛すぎる代物だった。縮緬雑魚やごまと混ぜ合わせたり、彩を考えてか輪切り唐辛子が混ぜてあるものも見かけたが、まあ、このあたりは各自お好みで。私は蕗の葉だけでも充分においしいと思うけど。この時期、葉の下に細くついている茎は、ほとんどアクがないので、なんと、おひたしでも食べられるぐらい。
地面を蟻が這い回る頃になると、蕗は透き通った茎をぐんぐんと伸ばし始める。蕗の葉が地面を覆い、日の光をさえぎるので、蕗の茂みには下草が生えなくなる。かがみこんで蕗の茎の間を覗くと、ちょろちょろっと蛇が這っていったりする。蕗の茎を折ると、水がしたたる。昔、山歩きをしている人たちが、蕗の茎をかじって水分補給をしたという話を聞いたことがある。
この頃になると、葉は大きく広がり、固くなり、アクが強すぎてもう食べられない。茎は葉よりもずっとアクが少ないので、本格的に蕗の茎を食べる季節がやってくる。茎は下茹でしてアク抜きする。毎回、食べるごとにアクが強くなっていくのがわかる。それにつれて、アク抜きのために茹でる時間がだんだんと長くなっていく。下茹でした後の蕗の茎は、炒め煮。茹でた茎を適当に切り、ごま油で炒め、砂糖、醤油を入れて煮る。たまに油揚げや肉の切れ端などを入れる。万葉の頃は猪か雉肉の切れ端などと煮込んでいたのではないだろうか。
ただし、蕗が本当においしいのは夏至まで。夏至を過ぎ、夏の土用の頃になると、だんだんと味が落ちてくる。その理由は・・・なんと、夏の土用の時期になると、蕗は生長を止めてしまうのだという。そしてどんどん固くなっていく。立秋を境にして、蕗は食用には適さなくなってくる。まさに夏の草、蕗。
我が家の庭には大量に蕗が生えるので、知り合いのところに配ったり、ご近所さんに「どうぞ蕗を採りにいらしてください」と声をかけていた。それでもまだまだあるので、蕗の料理をいろいろと試してみたのだが、どうやっても、和風の味にしかならないことが判明。やっぱり蕗は和食の代表食材。
蕗の利用法をあれこれ考えているうちに、ふと思い出したのがアンゼリカ。クリスマスケーキとかに緑色の斜め切でついているアレ。アンゼリカ、どうやって作るのかな?ということで、文献を調べてみたのだが、その結果、アレは蕗ではないことがわかった。アンゼリカはシシウドの仲間だったのである。もっとも、アンゼリカの代用に蕗を使用した砂糖漬けというのも、なくはないらしい。「ほら、やっぱりできるに違いない」と考え、いちおうトライはしてみた。してはみたけれど・・・。まあとにかく、蕗を使った和菓子って、見かけないなあ。
さて、蕗の調理をみなさんが嫌がるのは、アクが原因。重曹を入れて茹でる人もいるけれど、採ってすぐに調理すれば、アクはさほどでもない。子供の頃、こいのぼりの季節が過ぎた頃になると、祖母が田舎から貰ったといっては蕗の皮剥きをしていた。私も一緒になって皮剥きをして、右手の親指の爪が真っ黒になったっけ。爪ではなくナイフを使って剥きなさいよ、とご近所の知り合いが教えてくれた。でも、私はやっぱり爪の先を使って剥いてしまう。
ここで私が書いている蕗は野蕗だけど、石蕗(つわぶき)も、同様に食用となる。伽羅蕗(きゃらぶき)は、石蕗(つわぶき)で作る、と祖母は言っていた。蕗の皮を剥かずに作る保存食なのである。で、アクを抜きすぎると保存効果が落ちてしまうので、日持ちがしないんだそうである。私は、蕗を茹でた後、しばらく取っておきたい時には、茶色いアク湯の中に浸したままチルドルームに入れておく。そう、ペーハー調整剤なんかまったく必要ないのよ。蕗の葉で食材を包むことがあるけれど、あれは保存を兼ねていたんじゃなかろうか。
だいたい、アクの強い野草には虫がつかない。だから、虫に食われる心配もなく、そして農薬もかけなくていい。野草のアクを抜いて野菜化したら、虫に食われるわ、農薬は必要になるわで・・・。多少のアクは必要なのである、人も野菜も。各々の個性と自立のために! ただし、アクが強すぎると、「やっぱり食えないヤツ」になっちゃうので、加減が難しいんだけどね。
秋月さやか
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