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春宵のキャベツ畑に月は昇るなり

 キャベツは、ヨーロッパ原産の野菜。その原種は、大西洋を見下ろす断崖絶壁の上に生える強靭な植物であったという。キャベツ、甘藍。日本には江戸時代安政の頃に入ってきたそうであるが、栽培は明治以降に始まったという。が、いまやすっかり日本の食卓にはおなじみ、必須の野菜。
 さて、キャベツの旬は春。以前、三浦半島に住んでいた頃、よく農園の直売所までキャベツを買いに行った。温暖で海が近い三浦半島は、キャベツの故郷を思わせる場所だからなのか、とにかく三浦キャベツはおいしい。キャベツを買い込んだ後には、海岸沿いをドライブする。日が暮れ始め、海のほうを眺めると、青紫色の空に白い月が昇ってくる。昇り始めた月は、しだいに輝きを増し、キャベツ畑を明るく照らす。
 占星術ではキャベツは月に属する野菜である。白くてやわらかく、大きく丸い。たしかに月の性質を備えているのかも知れない。
 重なったキャベツの葉の中には何が入っているのか。キャベツの葉が幾重にも重なり、大事に何かを守っているように感じられるからだろう、「赤ちゃんはどこから生まれてくるの?」という子供の問いに、「キャベツの中」と大人たちが応える気持ちがなんとなくわかるような気がする。
 キャベツに限らず、大きな葉をもつ野菜は、食材を包むのに最適。ロールキャベツ。大人も子供も大好きな料理。もちろん我が家でも、ロールキャベツは大人気。ロールキャベツって作るの面倒、と思っている方もいるかも知れませんが…。我が家のロールキャベツは超簡単でしかも安いので、今回は、我が家のロールキャベツの作り方をお教えしましょう。
 
 まず、キャベツの葉を用意します。…私、キャベツの葉を拾いに行くことがよくあります。どこへ?スーパーマーケットの野菜売り場です。キャベツが並んでいる横にあるゴミ箱。そのゴミ箱の中に入っている立派なキャベツの葉! もったいなくないですか?
 私、家庭菜園をやっていますが、キャベツを作るのってすごく大変。しかも、キャベツの葉がなかなか丸くならないっ!キャベツの原種であるケールの葉は丸くなりません。それがいきなり突然変異で丸くなったものを品種改良して生まれたのが今のキャベツなのだそうですが。しかし、下手な生産者の下では、キャベツが反抗心を出して先祖返りしてしまうのか、とにかく我が家のキャベツは丸くならない。
 キャベツを丸くするにはいったいどうしたらいいのか? 丁寧に育てることだよ、と達人は言います。以前、野菜の本に「キャベツが丸くなりません。縛らないと丸くなりませんか?」という質問が載っていましたっけ。回答は「縛ってもだめです。」というもの。まさかキャベツを縛ろうと考えた人がいたなんて、思わず笑ってしまいましたが、質問者さんは真剣だったのでしょうね。もしもキャベツを丸く育てる魔法の言葉があるとすると、「かわいいね」と、毎日褒めながら育てることか、と思います。少なくとも、放任主義ではキャベツは丸くならないようです。かくして私は、丸いキャベツ、ロールキャベツに憧れるわけ。丸いキャベツ、それも大きな葉でないとロールキャベツは作れませんから。ああ、こんな大きな葉を捨てるなんて…もったいないっ!
 (もちろんゴミ箱の中といえど、いただいていきます、とお店にお断りしてから拾います。それに、行きつけのお店でしかいただきません。たとえ値段は0円だとしても、すべての物には値段のつけられない価値があるのですから。)
 

画像:春宵のキャベツ畑に月は昇るなり


 まあとにかく、キャベツの葉は、外葉に近い大きな葉をお使いください、ということです。葉の真ん中の葉芯は、切りとっておきます。葉芯を削いで丸ごと葉を使うように指示している料理書もありますが、葉芯の両側、2枚に分けてしまったほうが使いやすいのです。外葉の色が紫色になるぐらい光を浴びて硬くなった上の部分も切り取ります。(葉芯は別の料理に使います。ただし、紫色になった硬い部分は、さすがに茹でて食べるのは難しい。)
 葉芯を取り去った葉を茹でます。水から入れて沸騰して5分ほどして、葉が柔らかくなったら火を止めて。しんなりした葉が冷めたら、葉の水気をきっちり絞っておきます。破らないように、でも、きっちりと絞ってください。絞ることで、葉がさらにしんなりとして、巻きやすくなります。色は鮮やかな緑色にはなりません。料理写真のような鮮やかな緑色のロールキャベツは家庭料理では難しい、と最初から諦めてください。でも、心配しないで。味は問題ありませんから大丈夫!
 
 次に、キャベツの中に包むものですが、ひき肉です。鳥でも豚でもなんでも。
 失敗しないコツは簡単。ひき肉を小さく丸める。これだけ。具体的には、スプーン山盛り1杯ぐらいの肉を、手のひらの上に載せる。軽く手を握って、はみでないぐらいの分量です。
 料理の本を見ると、生のひき肉をかなりの分量、キャベツの葉で巻くように指示しています。が…これ、ちょっと難しいわ、というのが、実際にやってみた私の結論でした。何回も失敗を繰り返し、私は肉の分量を小さくすることにしました。ひき肉だけでもいいし、野菜の残りをみじん切にして混ぜてもいいでしょう。パンの耳をちぎって混ぜる人もいるようです。私は、野菜の切れ端と肉だけということが多いです。
 とにかくひき肉の塊を茹でたキャベツの葉で包む。そうしませんと、ロールキャベツになりませんからね。硬すぎる葉脈は、まな板の上でスプーンなどで押して潰します。葉の硬いほうに肉を載せ、巻き終りは柔らかい部分がくるようにします。爪楊枝でとめるなどという危ないことはしませんし、かんぴょうで巻く必要もありません。(キャベツの巻き終わりに、小麦粉をちょっとつける、という人もいます。私はやっていませんが。)
 キャベツを巻き終えたら鍋の中に並べますが、注意点が3つ。鍋の底にあらかじめキャベツの葉を敷き(硬い部分で充分です)、その上に並べてください。そして、2つめ。巻き終わりを下にして置きます。3つめ。なるべく隙間が空かないように並べます。隙間が空きすぎていると、茹でている間にキャベツが剥がれてしまうことがあります。私は、隙間に、にんじん、たまねぎ、ゆで卵を間に入れて調整します。たまねぎは間引きしたような小さなたまねぎが柔らかくておいしい。ただし、ペコロスは高いので使わない。
 
 並べ終えたら、すべての食材が完全に浸るまで、水を入れます。コンソメスープを半個分入れて弱火で煮ます。とにかく弱火で時間をかけてください。にんじん、たまねぎ、キャベツの葉が柔らかくなったら、味付けにいきます。
 コンソメスープを増量して仕上げてもいいのですが、色が鮮やかではないので、澄まし仕立てでは映えません。私は、市販のビーフシチューの素とホワイトシチューの素を混ぜて仕上げます。もしあれば、フェンネルをほんの少し。フェンネルは、キャベツのコンパニオンプランツとしても知られています。そして、なによりも家庭の幸せをもたらすと言い伝えられているハーブですから。種をつぶしてほんの少し加えて。生葉があれば仕上げに飾ってください。
 
 盛り付けは、ゆで卵を半分に切り、別茹でのブロッコリーかさやえんどうを添えて出来上がり。フランスパンのトーストも用意してください。
 ちょっと豪華なランチ、ブランチにぴったりなので、私は、前日の夜に鍋の中にロールキャベツを並べ、鍋ごと冷蔵庫に入れて準備しておきます。
 ロールキャベツに代表されるように、何かが包まれている料理というのは、いったい中に何が入っているのかな、と、興味津々の楽しみがあるのでしょう。さらには、鍋で時間をかけて煮込んだというのが、いかにも愛情たっぷりという感じ。たしかに、月の恵みにふさわしい料理かな、と思います。決して豪華ではありませんが、ほっとするような、それがロールキャベツの魅力。まさに家庭料理の代表といっていいのではないでしょうか。
 
 春の満月は、キャベツだけでなく、地上に育成するものたちすべてに、新たな息吹を与えます。朧な夜風に柔らかな月の光。月の光と春の暖かな湿気の中で育まれる新たな命に祝福あれ。

秋月さやか


参考文献:
メッセゲ氏の薬草療法 田中孝治監修 自然の友社
わたしのキッチンガーデン たなかやすこ 主婦の友社
旬の野菜と魚 サライ編集部 小学館
写真:素材辞典

筆者エッセイ > 春宵のキャベツ畑に月は昇るなり

 
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