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七夕伝説、縁結びの麺

 織女は天帝の娘で、機織が仕事。牽牛は、地上の人間で牛飼い。牽牛と織女は惹かれあうが、恋に夢中になりすぎて、お互いの仕事を放り出してしまう。天帝が、それでは困ると、2人を天の川の西と東に別れさせる。が、今度は、お互いを恋しく思うあまりに、やはり仕事が手につかない。そこで天帝は、「1年に1回だけ」と2人の逢瀬を許す・・・。
 
 織女星は、天頂高くに輝くVega。
 人間の文明を支える衣食住。その中でも衣の役割を司る。糸を紡ぎ、糸を織って布にする。布は生活に不可欠で、昔は、機織は女の仕事。なぜ天帝の娘なのかといえば、天頂近くに輝く星だから。
 Vegaは北極星の回りを巡ることから、古代においてはたぶん時計の役割も果たしていた。時計として代表的なのは北斗七星であるが、北斗星七星だけでなく、天頂近くの星は、その巡りで時を計るために使われる。そう、時計の針と同じ原理。時の糸を紡ぎながら、天頂を巡る織女星。北欧神話のノルンのように、時の糸を紡ぐというのは、運命を紡ぐことでもある。
 
 牽牛は、牛飼い。牛を引いて田畑を耕す。牛は労働力であり、食の生産に関わる。
 牽牛星(Altail)は、実はその下に輝くβCapの目印となる星であった。Capricornは山羊だけれど、それはつまり犠牲獣。犠牲獣とは、人間に命を与える家畜の総称。βCapのDabihは、羊の屠殺者という意味である。つまり、牛でも山羊でも羊でも、家畜。そして山羊座には目立つ星がないため、その目印として用いたのが牽牛星だった。
 牽牛星は、古くは冬至をあらわす星。古代中国では、太陽が南中した時の影の長さが最も長くなる日をもって冬至としたが、冬至の頃、太陽はだいたいβCapのあたりを通過していた。太陽の再生を祈るのが冬至。たぶん、冬至の祭事には、太陽と大地の再生を祈って犠牲獣を捧げたこともあったのだろう。そうして、大地も家畜も、新たな命を生み出していくのである。
 
 時の巡りの中に訪れる年の区切り。その区切りがあるからこそ、暦が作られる。つまり、織女と牽牛のお話は、時と暦の伝説である。
 現代では、山羊座の星が夜空に輝くのは秋に入った頃。しかし、古代では、山羊座の星は真夏の夜空に輝いていた。冬至の頃に太陽が通過している星は、冬至とは反対側の夏至の頃に一晩中輝く。そして、地上に暮らす人々にとって、夏至の前後は、出会いと恋の季節でもあった。時を計る2つの星が、たまたま銀河で隔てられていたことから生まれのが、織女と牽牛の非恋物語だったのだろう。
 

画像:七夕 冷やし中華


 さて、日本では七夕には機織の上達を願って、素麺を食べる習慣がある。織女が紡いだ糸に見立てた素麺。麺は縁結びのまじないにも使われる。そう、縁結びの糸、という意味で。結婚式の時に麺を食べる地方があるが、これはいつまでも長いご縁で結ばれますように、というまじない。だとすれば、この七夕の麺、縁結びのまじないという意味を含んでいるという解釈も成り立つだろう。
 出会いがなければ縁も生じない。だから、七夕の夜の祭りは、男女の出会いの場。つまり、七夕の合コン。旧暦7月7日は、グレゴリオ暦では、7月後半から8月前半のどこかにあたり、まさに夏祭りたけなわの季節。
 
 そして中国では、七夕は星観の夜、七巧節。針仕事の上達を願いながら、7色の色糸を針に通す。これは、針仕事だけでなく、道具を使う技能の上達を願うまじないだとか。技能上達という意味で、鋏や筆などの道具を飾ることもあるようです。
 七夕に瓜を飾る習慣は、作物の豊穣と、水を願ってのまじない。笹の葉に短冊を吊るしたりは・・・しないようです。
 特徴的なのは、もやし。七夕の10日ほど前から緑豆を水につけ、発芽させるのだといいます。もやしを糸にみたてたのでしょうか?
 ところで、麺のルーツって中国だったよなぁ、と思ってKちゃん(from台湾)に聞いてみたら・・・。
 「七夕? ああ、ギョウザ食べるよ。水ギョウザね!」という答えが返ってきました。あれ?麺は食べないの?と聞いたら「ワンタンメン?」と聞き返されましたが。文献によれば、中国でも古い時代においては麺を食べたようですが、今ではあまり見られないとのこと。
 でもやっぱり、七夕には麺! もやし入りワンタンメンとか、細切キュウリ、ハム、錦糸玉子をのせた冷やし中華なんか、ぴったり!
 
 1年に1度しか会えない遠距離恋愛というのは、現代社会に始まったことではなく、昔からありました。めったに会えない2人は、七夕の夜に互いを思いあいながら、縁を繋いだのでしょう。
 
 長恨歌は、玄宗皇帝と楊貴妃の恋物語をテーマにした唐詩ですが、その詩の中で、玄宗皇帝が亡き楊貴妃を偲んでいると、7月7日の夜、天界からの使者がやってきます。楊貴妃の使者である証として、かつて2人が長生殿で誓った言葉を伝えるのです。2人しか知らない愛の誓い。
 それが「願わくば天にありては比翼の鳥、地にありては連理の枝とならんと。」という言葉。この部分、韓流ドラマのタイトルにもなったので、ご存知の方も多いでしょう。
 
 織女と牽牛の話には、恋に夢中になって仕事を放り出さないように、という教訓も含まれています。楊貴妃は傾国の美女になってしまったわけで、そのエピソードをほのめかしながらの7月7日長生殿。ロマンチックなだけの恋物語ではないところが、長恨歌の魅力でしょうか。
 といっても、まあ、七夕の夜ぐらいはいいのではないでしょうか。仕事なんか忘れて、2人だけの世界、じっとお互いを見詰め合っても、ね。

秋月さやか


参考資料:
唐詩選
中国の星座の歴史 大崎正次 雄山閣
中国の年中行事 中村喬 平凡社選書
東京夢華録 宋代の都市と生活 孟元老 東洋文庫
写真:素材辞典

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