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秋の七草、萩餅の由来

 秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびおり)
 かき数えふれば 七種の花 
                     山上憶良
 

 七種の花というのは・・・はぎ、おばな、くず、なでしこ、おみなえし、ふじばかま、あさがお。これが秋の七草。
 最初に登場するのは萩。古くは芽子(はぎ)とも書きます。赤紫と白の小花。そして、秋の早朝、萩の葉にたまる露の輝き。ころころと玉になった露は、風が吹くと、花びらと一緒にいっせいに散りこぼれます。まさに日本の秋の風情・・・たぶん、古典に綴られた萩の風情も、こんな感じだったのかも・・・。
 
 と、なんとも歯切れの悪い書き方しかできないのには、理由があります。植物事典で「ハギ」を引いてみてください。「ハギ」という名前の植物は見当たりません。植物事典にあるのは、マメ科、ハギ属の植物が幾つか。シロバナハギ、ネコハギ、ヌスビトハギ、メドハギ、ナンテンハギ、ヨツバハギ・・・。そしてミヤギノハギ。
 広辞苑でハギを探すと【萩・芽子】・・・普通にはヤマハギ、ミヤギノハギ・・・というように記載されています。
 
 古典に登場する萩は、ヤマハギ。これは日本の山野に古来から生えていたもの。ミヤギノハギは園芸種で、一般的にはそちらを見かけることのほうが多いかと思いますが、これは万葉の時代にはなかった品種。改良品種が広まっていく陰で、いつしか原種の姿が忘れられていく・・・これが世の移り変わりなのでしょう。
 
 ヤマハギは、ミヤギノハギほど枝がしだれず、花も小さいといいます。山野に自生する普通のハギ・・・というように解説されている本が多いのですが・・・山野に分け入ることがなければ、目にすることもありません。実際、植物図鑑にはほとんど載っておらず、私は、ヤマハギの写真を探しまくりました。そして、「草づくし」(白洲正子)で、宮寺昭男氏が撮影した写真をようやく見つけたのです。なるほど、華やかなミヤギノハギと異なり、素朴な風情。
 今、私が眺めているのは、たぶんマルバハギ。こちらも古くから日本の山野に自生していた種類ということで、ヤマハギの姿にかなり近いとは思うのですが・・・。
 
 萩はマメ科の植物なので、荒地でも育ちます。土壌改良の肥料になり、新芽は家畜の飼料に、枝は箒に、乾かして燃料に、花は染色に。
 ハギの語源は、刈られても、次の年には新たな芽が出てくることから「接ぎ(はぎ)」(接ぎあわせる、新しい枝がつがれて成長していく、というような意味)となったという説があります。まさに根強い生命力を宿した草木。
 が、箒に使うので「掃き木(ハキギ)」→ハギになった・・・という想像も、もしかしたらありえるだろう、と私は考えるのですけどね。箒は、藁や木の枝を束ねたもの。これは西洋でも東洋でも作り方はほぼ同じで、使う植物が異なるだけ。魔女の箒は荒地に生えるヒースで作ります。そして、箒は埃を掃き出すことから、強力な魔除けグッズ。となれば、萩の小枝を束ねて、厄除け箒でも作ってみましょうか。
 

画像:萩の花と実


 蒸した餅米を丸め、小豆餡をまぶしたものを、牡丹餅とかお萩とか呼びます。お彼岸には欠かせない供え物。どちらが正式な呼び名なの?と、お彼岸には必ず出る話題ですが、一般には、春に作るのを牡丹餅、秋に作るのをお萩。と、祖母も言っていましたっけ。
 
 昔、萩の実は、粉にして粟(アワ)と混ぜて蒸かし、餅にして食べたと言います。どうやらそれがお萩(萩餅)の由来らしいのです。
 それがいつの間にか、萩の実を使わない餅米団子になっていったのでしょう。そして、秋に作るからお萩、という呼び名だけが残った、というわけです。小豆を混ぜ込んだ餅の様子が、萩の赤い小花が咲いているように見えるから萩餅、という説もあるようですが。もしかしたら、小豆も混ぜ込んで蒸したのでしょうか。萩や粟の実、小豆が実るのは秋ですから、たぶん昔は秋にだけ作っていた食べ物なのかも知れません。
 
 昨年、萩の実って、どんな実なのか見てみようと思って、花が咲き出した頃から気を付けて観察していましたら・・・。ある秋の朝、みごとな花が全部鹿に食べられてしまいました。萩に鹿。猪じゃなくって。
 写真は、ご近所の庭の萩の実です。おそらくマルバハギ。しかしこれ・・・食べられるのかな? 小さいマメの鞘のようなものを想像していたのですが・・・草の実のような感じです。
 「たぶん食べられるんでしょうね。だって、花だけでなく、実も、鹿が食べてしまうみたいだから。」というお話でした。つまり、鹿が食べるんだから、毒ではないということらしいのですが・・・まだ私は食べていません。

秋月さやか


参考文献: 「草づくし」 白洲正子 新潮社
「春・秋 七草の歳時記」 釜江正巳 花伝社
「原色野草検索図鑑 離弁花編」 池田健蔵 遠藤博 北隆館
「広辞苑」第四版 岩波書店
写真:筆者撮影

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