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御守(おまもり)トリセツ注意項目

 神社に行けば、「合格祈願」「家内安全」「夫婦和合」「五穀豊穣」「商売繁盛」「無病息災」「安寧長寿」「子孫繁栄」。の、御守(おまもり・護符)が並んでいます。きっと「怨霊退散」もあるんでしょうし、「株価高騰」があってもおかしくはない。深謀遠慮とか治外法権、沿岸警備っていうようなのも作ったらどうよ、と言いたくなってしまうような、そんな四文字熟語のオンパレードであります。つまり世の中には御守(おまもり)が溢れている。願望の数だけ御守がある。
 
 日本全国で1年間にどれぐらいの数の御守が売れているのか。調べようとしたのですがこれがわかりません。「お守り、お札、おみくじ等の販売のように、その売価と仕入原価との関係からみてその差額が通常の物品販売業における売買利潤ではなく、実質的な喜捨金と認められるような場合のその物品の頒布は、収益事業には該当しません。」とあります。(国税局の資料から)
 神社の収入の内訳が公開されているわけではないこともあり、売上個数を調べる方法がわからないのです。きっとかなりの個数が売れているのだろう、という推測でしかありませんが。
 2009年の統計局のデータによれば、15歳以上の通学者は6,544,964人。650万人。ざっくりいってその3分の1ぐらいは入試をうけるタイミングに当たっているため、200万人以上は受験の御守を買う可能性があるでしょう。仮に高校以降の受験時に御守を1つは買うと仮定すると、平均3年ごとに1つ御守購入ですから。200万個、1個千円としても約20億円。世の中には中学校、小学校、幼稚園のお受験まであるわけですから、試験合格、学業成就いずれかの御守と考えた場合、その3倍ぐらいは売れているんでしょうか。
 
 さて。お金の推測はこのぐらいで。以下に、御守を用いる時のトリセツ注意事項を書いてみました。
 
【御守トリセツ注意1】御守は見守りと心得るべし
【御守トリセツ注意2】逆効果誘発の可能性もある危険アイテム
【御守トリセツ注意3】他力本願の世界へようこその危険性
【御守トリセツ注意4】時を外した御守は役立たずどころか有害
【御守トリセツ注意5】相手を操作しようとする呪術袋ともなる
 
 
【御守トリセツ注意1】御守は見守りと心得るべし
 子供の頃、十三参りに行ったら門前の土産物屋に御守が並べられていた。虚空尊だから「学業成就」とか「合格祈願」とかの類。
 「欲しい?」と祖母が私に聞く。「御守ってなんのためにあるの?」と私は聞いた。
「神仏に合格をお願いするため」と祖母。「お願いしたら聞いてくれるの?」と私。
「昔の人は神様や仏様がいるなら聞いてくれるんじゃないか、と思ったんだろうね。」「で、いるの?神様とか仏様とか。」
「さあね。いないんじゃないかな。」「じゃあ、聞いて貰えないじゃん。」と、土産物屋の店先に並んだ御守袋を指さす私。 すると祖母は言った。「御守を持ってたら合格するなんて、そんな世迷言。御守は役にたたないものだよ。」「えっ?!」
 
 「合格させてくださいって神仏にお願いするぐらい必死でいます、っていう気持ちのあらわれ。神社に行くのもそう、さっきお願いしたでしょ。御守はその記念。初心忘れるべからず。くじけそうになったら、御守を見てあの時の気持ちを思いだせ、頑張れ、っていうこと。御守が見守っている、ぐらいに思えば間違いない。」とまあ、こういう訳です。
 祖母の言い分によれば、御守は自分で自分のために買うもの。わざわざ人のために買っていってあげるのはいらぬお節介ということなんだそうで。たしかにそうだ。それって、御守袋というよりお節介袋。まあ、お節介も見守りのひとつの形ではありますが。
 
 
【御守トリセツ注意2】逆効果誘発の可能性もある危険アイテム
 ところで私には同い年の従弟がいる。当時、この従弟は勉強嫌い。当然、成績も悪い。(注・当時の私は成績はよかった。)
「ねえ、Yちゃんに買ってあげたら?」「なぜ?」と祖母は私に聞く。
「だってYちゃん、勉強嫌いだし、成績も悪いから。」「御守をあげたらYの成績がよくなるとでも?」
「ううん、そんなことはないよね。」「それどころか、御守があるからって、ますます怠けそうな気がするよ、Yは。」
 ええっ?それでは逆効果では? たしかに御守を買ったら合格するっていうんなら、誰も勉強なんかしないに決まってる。ああ、そんなの幼稚園生でも理解できる話だ。勉強せずに受かってしまったその後がどうなるか。それはもう悲惨な成り行き間違いなし。
 
 とはいうものの、私も受験という関門を前にして、運が良ければ点数がちょっと余計に取れることもあるなんていうギャンブルみたいなものだというのが理解できるようになってしまった時期もあるわけで、その時には御守はないよりはあったほうがいいのか?とは考えた。「ないよりあったほうが」程度が普通の人の感覚。
 もしも御守に「合格お願いします」と手を合わせて奇跡を期待しているという場合には、これはすでに無理。受かったら奇跡→つまり、受かることが奇跡であるぐらい可能性が薄いということを自ら認めている行為となるわけで、これではどう考えても無理。むしろ、御守がないほうが頼るべきは自分だけとなって、結果的に机に向かうんではないか、という気がしますが。
 
 
【御守トリセツ注意3】他力本願の世界へようこその危険性
 高校時代のこと、仲の良かった男友達が「いや、参ったよ」と言いながら、テーブルの上に何かをじゃらっ、と置いた。それは御守袋の束。え?!10個以上はある。そんなに神頼みがしたいのかコイツは、と私はびっくりした。財布を持ちあげ、C君は御守袋の束を私の目の前に揺らした。そして1つずつつまみながら、「これなAちゃん、こっちKちゃん、これは…Tちゃん…」と、御守をくれた女の子たちの名前をそらんじていく。
 特定の彼女は作らないというポリシーのC君は、とにかくもてた。そしてC君を狙っている女の子たち全員が御守を贈った、というわけだ。最初にくれたのはAちゃん、アニメ声、ぷっくりした唇の女の子。Aちゃんの御守を財布につけていたら、それを見たKちゃんが「私のも持っててね」とくれたという。Kちゃんはいつもジーンズ、すらっと足が長い女の子だった。そして2個の御守がついている財布を見たTちゃんが…と、次々に連鎖反応が起こり、どんどんと御守袋の数は増えていったそうな。
 「も・も・・・もてるんだねえええ。」と、私はびっくりして、思わず声が裏返ってしまった。「なんだよ、そんな変な言い方しなくたって。」とC君は憮然としていたが、いやこれはすごい話だ。
 贈られた御守が「あなたに期待しているわ」という意思表示になっていることだけは確かだ。私が通っていた都立高校は高校時代のカップルが大人になってから結婚するケースが実際に多かった。だから、恋人が確実な就職先に繋がるであろう第一志望校に合格することを祈るというのは、将来の運命を賭けるという意味では大事なことだったのかも知れないけれど。C君の合格を10人ほどの女の子たちがお祈りしている…。だからなのかどうなのか、C君はめでたく第一志望校に現役合格を果たす。といっても、それはC君の願いでもあったし。
 C君は他力本願ではなかったが、でも、彼女たちがC君に贈った御守は他力本願の実体化、のような気がしないでもない。いえ、別にいいんですけど。ま、そういうのもアリですけど。
 
 しかし問題はその後にあった。C君はTちゃんと付き合い始める。超真面目にTちゃんのお家に挨拶に行ってからだから、本気も本気。しかしその1年後にC君とTちゃんは別れてしまう。
 風の噂に2人が別れたと聞いてからほどなく、C君とばったり会った。秋葉原界隈。ちょっと声をかけにくいなあ、という雰囲気はあったのだが…それでも近づいてみると、「あれえ」と、すぐに昔の笑顔を見せてくれた。「元気〜?」と、他愛もない挨拶の後、ああ、やっぱり私は聞いてしまった。「Tちゃんとは?」〜しばし長い沈黙。なんと!涙ぐむC君〜「あ…大丈夫?」「…ああ。」
 いや、まったく大丈夫なんかじゃなかった。C君の鼻先がみるみる赤くなったかと思うと、さっと上を向いた。上を向いて歩こうよ、涙がこぼれないように、だ。ぐすんぐすん言いながら、地下鉄の駅まで上を向いて歩きながら人にぶつかりそうになる彼の袖を、私は頻繁にひっぱりながら歩いていった。
 「…だいたい発端は御守で。別れの理由も御守だっ。」C君は落ちてくる涙と鼻水をぐいっと拳で拭いながらひとり言のように言った。行きがかり上、私はさっき街角で貰ったティッシュペーパーの袋を渡す。ち〜ん!とC君が鼻をかむ。すれ違った人たちが、物珍しそうにちらっと眺めてはあわてて視線をそらす。後ろを向きざま、くすっと笑っている人とか。改札の前だ。恥ずかしいったらありゃしなかった。
 
 以下、C君の話を要約すると。交際スタート後、Tちゃんは湯島天神にデートに行こうとC君を誘う。そして無邪気にこう言って手を合わせたのだそうだ。「御守のおかげでC君は××大学に合格できました、ありがとうございます」と。C君はそれを聞いた途端に違和感を感じたという。「だってさ、合格したの俺だよ。まるで神様に合格させてもらったかのような、そんな言い方ってあるか?」
 御守とか神社の御利益が好きな人、気をつけたほうがよいポイントです。神社にお礼を言う前に、まずは本人の努力を讃えてください。
 
 
【御守トリセツ注意4】時を外した御守は役立たずどころか有害。
 とはいうものの、おおむね2人は相性がよかった。Tちゃんの両親はC君を気にいったし、お似合いの2人だったし。結婚もありかも、という雰囲気になっていった2人。
 その2人が破局を迎えたのはつきあいはじめて1年後。Tちゃんは2つめの御守をC君に贈る。浅草界隈にある有名な縁結びの神社の境内で。色違いの御守袋を、ひとつは自分の手に持ち、もうひとつをC君に手渡して…「どうか2人を結婚させてください。」と。無邪気に手を合わせていたというTちゃんには、悪気なんてこれっぽっちもなかったとは思うけど。とにかくその直後、C君はTちゃんと別れた。
 
 他力本願が鼻についてきたということが理由としては大きかったのだろうが、つまりのところ年齢的に早すぎた。結婚紹介所に駆け込みたいお年頃の男なら、そりゃ願ったり叶ったり、その場で願望成就間違いなしだけれど、タイミングを外した御守ほど意味なく、そして厄介なものはない。
 
 
【御守トリセツ注意5】相手を操作しようとする呪術袋ともなる
 御守がC君を合格させてくれたわけじゃないように、御守が2人を結婚させてくれることなんてない。言い換えれば御守のせいで結婚させられてしまうことはない。しかしそこに込められた「結婚してね」オーラに感応して「結婚してあげなきゃいけないんだろうなあ」プレッシャーに押し潰されてしまうことはあるかも知れない。
 
 誰かから贈られた御守袋というのは、その中に相手の願望もこめられているもの。純粋にあなたを想う相手の気持ちというよりも、贈ってくれた相手の願望も入っていると思ったほうがよく、時にはあなたを操作しようとする呪術袋となることだってある。もちろん、その相手の願望とあなたの願望が一致しているならたしかに問題はない。
 けれど、相手にわからないように、呪術的なアイテムを身につけさせてしまうというやり方が呪術には伝えられているぐらいだから、実際にはどういう願いが込められているのか、謎なアイテムを手渡されるというのは、落ち着かないものだ。そのような呪術が実際に効果があるかどうかというと、それはまた別問題だけれど、しかしそのように考えると、御守袋ってなんか怖いなあと思うわけですよ。

占術研究家 秋月さやか

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