過去を洗い流す波

　ケルトの民話では、波には、９つの種類があるといいます。それは波の９つの役割なのです。ある波は魚の目を覚まさせ、ある波は海草の世話をし、また、ある波は、すべての物事に終わりをもたらす・・・。９とは、物事が始まり、そして終わる運命周期。海は、生命の源であると同時に、帰る場所。１つめの最初の波が打ち寄せる時、それは新たな物事の始まりを告げます。そして、９つめの最後の波が引く時に、すべては終わり、過ぎ去った物事は過去となるのです。砂の上に、忘れてしまいたいことを書き、波が９回、洗い流すまで眺めていてください。９回の波で、すべてが消され、過去のものとなるでしょう。
　貝殻の渦巻きの中に、忘れたいことをささやく、という方法もあります。貝殻の螺旋が次第に小さくなっていく中に吸い込まれていった記憶は、限りなく消滅に近づき、貝殻の中に閉じ込められます。貝殻を海の中に返せば、閉じ込められた記憶も共に、忘却の海底に眠り続けることでしょう。

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